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京都地方裁判所 昭和37年(ワ)204号 判決

原告 江口証券株式会社

右代表者代表取締役 辻一義

右訴訟代理人弁護士 松浦武二郎

被告 増沢季敏

〈外二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 高島三蔵

主文

被告増沢季敏は原告に対し別紙目録第一の(1)記載の物件(本件物件)についてなされた第二記載の仮登記の本登記手続をせよ。

被告増沢季敏は原告に対し本件物件を明渡せ。

原告が右本登記を経由することを条件に、原告に対し、被告増沢季幸は、本件物件中別紙目録第一の(2)記載の部分を被告増沢季元は、同別紙目録第一の(3)記載の部分を、各明渡せ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

本判決第二項は、被告増沢季敏に対し金二〇万円の担保を供するとき、仮りに執行できる。

事実

≪省略≫

理由

原告主張の(一)、(四)、(五)の事実は被告らの認めるところである。≪証拠省略≫によれば、被告季敏は、昭和三〇年二月二日、自己の依頼した弁護士出野泰男と公証人役場に出頭し、原告代理人池内正太郎とともに、原告主張の代物弁済契約に関する公正証書(甲第二号証)の作成囑託をなし、原告主張の代物弁済契約が成立した事実(原告主張の(二)の事実)、もつとも、原告主張の(四)の仮登記は、物件保全のための仮登記でなく請求権保全のための仮登記であるが、これは司法書士の誤つた申請にもとづく事実、なお、原告主張の代物弁済契約締結と同時に、被告季敏が昭和三五年二月末日までに金三〇〇万円を完済するときは、被告季敏は原告より本件物件の所有権を回復しうる旨の特約がなされたが、原告は、右特約の支払期限延期を承諾したことなく、被告ら主張の送金は、被告季敏が一方的に送金しているにすぎない事実を認めうる。被告ら本人の各供述中右認定に反する部分は採用し難い。

本件のように、甲が、乙に対する債務の代物弁済として、不動産の所有権を乙に譲渡した場合、すなわち、不動産登記法第二条第一号所定の所有権保全のための仮登記をなすべき場合に、誤つて同条第二号所定の所有権移転請求権保全のための仮登記がなされても、右仮登記は有効であると解するのを相当とする(最高裁判所昭和三二年六月七日第二小法廷判決、民集一一巻九三六頁)。したがつて、被告季敏は、原告に対し、原告主張の(四)の仮登記の本登記手続と本件物件の明渡とをなすべき義務がある。

ところで、乙が、甲より建物所有権の譲渡を受け、その仮登記を経由した場合、その仮登記経由以後に、丙が、甲よりその建物を賃借してその対抗要件を具備したとき、賃借人は登記の欠缺を主張しうる第三者に該当するから、乙は、本登記を経由しないかぎり、その所有権の取得を丙に対し対抗しえないが、乙が本登記を経由すれば、丙は、その賃借権を乙に対し対抗しえないから(仮登記の順位保全の効力)、乙は、丙に対し、本登記を経由することを条件とする建物明渡の判決を求めうるものと解すべきである(昭和三八年一〇月八日第三小法廷判決、参照)。

乙が、甲より建物所有権の譲渡を受け、その仮登記を経由した場合、丙が、甲より使用貸借によりその建物を占有しているとき(使用貸借は、建物賃貸借と異なり、第三者に対する対抗力がないから、丙の使用貸借の成立が乙の仮登記経由以前のときと以後のときとを区別する必要がないが、本件建物使用貸借は仮登記経由以前に成立している)、使用貸借の借主は登記の欠缺を主張しうる第三者に該当するものと解するのを相当とするから、乙は、本登記を経由しないかぎり、その所有権の取得を丙に対し対抗しえないが、乙が本登記を経由すれば、丙は、その使用貸借にもとづく権利を乙に対し対抗しえないから(使用貸借は第三者に対する対抗力がないから、本件のように、丙の使用貸借の成立が乙の仮登記経由以前の場合でも)、前項の設例の場合と同じく、乙は、丙に対し、本登記を経由することを条件とする建物明渡の判決を求めうるものと解すべきである。

したがつて、原告は、被告季幸、同季元に対し、前記本登記を経由することを条件に、それぞれその占有部分の明渡を求めうる。

よつて、原告の本訴請求はすべて正当としてこれを認容し、民事訴訟法第八九条、第九三条、第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小西勝)

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